一年の中で気温がもっとも高くなり、素足にサンダルやミュールといった開放的な靴を履く機会が増える夏。
この時期、当院の皮膚科外来において急増するご相談の一つが「巻き爪」や「陥入爪(かんにゅうそう)」です。

巻き爪

陥入爪
「たかが足の爪1本くらいで、大げさな……」と思われるかもしれません。
しかし、実際に体験された方ならよくお分かりかと思いますが、足の指先に強い痛みが走ると、体重をかけることすら苦痛になり、まともに歩行することすら難しくなってしまいます。仕事に行くのも、日常の買い出しに行くのも、楽しみにしていた休日のお出かけも億劫になってしまう。
たった1本の爪のトラブルが原因で、私たちのQOL(Quality of Life=生活の質)は非常に大きく損なわれてしまうのです。
巻き爪や陥入爪を引き起こす背景には、普段履いている靴の圧迫、歩き方の癖、加齢による爪の変形、急激な体重変化や妊娠など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
しかし、長年皮膚科医として数多くの爪トラブルを診察してきたなかで、患者様が良かれと思って行い、結果として症状を最悪のレベルまで悪化させてしまっている「ある共通の行動」が存在します。
今回は、皮膚科医の視点から
「巻き爪・陥入爪になったときに、絶対にやってはいけない一番のこと」
を徹底的に解説するとともに、爪の正しいケア方法、そしてクリニックで行う専門的な治療について詳しくお伝えしてまいります。
巻き爪と陥入爪(かんにゅうそう)の違いとは?
まず最初に、「巻き爪」と「陥入爪」という言葉の定義と、それぞれの状態の違いについて整理しておきましょう。多くの方はこの2つを同じものとして混同されていますが、解剖学的には明確な違いがあります。
巻き爪(まきづめ)とは

「巻き爪」とは、爪の甲(爪甲:そうこう)の端が、内側に向かって強く丸く巻き込んでいる状態そのものを指します。 横から見ると、爪が「C」の字や「U」の字、あるいは「筒状」に丸まっているのが特徴です。 爪自体が巻いているだけで、周囲の皮膚に強い炎症を起こしていなければ、実はほとんど痛みを感じないケースもあります。しかし、巻いた爪が指の肉を強く挟み込むようになると、歩行時や靴による圧迫によって鈍い痛みを引き起こすようになります。
陥入爪(かんにゅうそう)とは

一方の「陥入爪」とは、爪の端(側縁)が、隣接する皮膚(爪溝:そうこう、側爪褶:そくそうしゅう)に突き刺さり、皮膚に炎症が起きている状態を指します。 重要なのは、「爪が巻いていなくても陥入爪になる」という点です。たとえ平らで真っ直ぐな爪であっても、端が鋭利に刺さっていれば陥入爪になります。 主な症状としては、刺さっている部分の劇的な痛み、赤み、腫れ、熱感などがあり、悪化すると創部からジュクジュクとした浸出液(汁)が出たり、細菌感染を起こして膿(うみ)が溜まったりします。
2つが組み合わさると「最悪の激痛」に
最も重症化しやすいのが、「巻き爪」と「陥入爪」が合併したパターンです。内側に強く巻いた爪の鋭い角が、足の指の柔らかい肉へダイレクトに突き刺さるため、足をつくこともできないほどの激痛が生じます。
夏場に「巻き爪・陥入爪」が急増する3つの医学的理由
なぜ、7月・8月・9月といった夏の時期に、巻き爪や陥入爪の患者様がクリニックへ駆け込んで来られるのでしょうか。これには夏特有の環境と、皮膚や爪の解剖学的な理由が深く関係しています。
① 汗や湿気による皮膚の「ふやけ(浸軟)」
夏場は足の裏や指の間に多量の汗をかきます。靴下の中やサンダルの接地面が蒸れることで、足の皮膚は水分を含んで柔らかく「ふやけた状態(浸軟:しんなん)」になります。
ふやけた皮膚は、乾燥している状態に比べて著しく強度が低下しており、非常に傷つきやすくなっています。そのため、普段なら耐えられる程度の爪の当たりであっても、簡単に爪の角が柔らかい皮膚を突き破り、陥入爪を発症してしまうのです。
② フットウェア(靴)の変化による足指への負担
夏に好まれるサンダル、ミュール、ビーチサンダルなどは、スニーカーなどに比べて足を固定する力が弱く、歩くたびに足の指が前へ滑ったり、指先に余計な力(踏ん張り)が入ったりしがちです。
また、靴底が薄くて硬いサンダルは、地面からの衝撃が直接足の指先へと伝わります。歩行時の不適切な荷重変化によって爪へかかる力のバランスが崩れ、巻き爪や爪の刺さりを誘発します。
③ 素足になることで爪の端が引っかかりやすくなる
靴下を履かない素足の生活が増えることで、家具の角や絨毯の繊維、ふとんなどに爪の端を引っかけやすくなります。これにより爪が割れたり、端が裂けたりして鋭利なスパイク状(トゲ状)の爪が形成され、それがそのまま皮膚へ刺さってしまうケースが多発します。

皮膚科医が断言する「絶対にやってはいけない一番のこと」
ここからが、今回最もお伝えしたい核心部分です。
足の爪の端が皮膚に刺さって痛み出したとき、ほとんどの患者様が真っ先に行う行動があります。
それは、「痛みの原因になっている爪の角(刺さっている部分)を、爪切りで斜めに深く切り落とすこと」です。
一見すると、「刺さっているトゲを取り除く」という意味で理にかなった処置のように思えます。しかし、皮膚科医の立場から断言させていただくと、この「爪の角を斜めにカットする行為(バイアスカット・斜め切り)」こそが、巻き爪や陥入爪を劇的に悪化させる最大の引き金(罠)なのです。
なぜ「角を切る」と悪化するのか?(負の無限ルーレット)
なぜ、痛い部分を切っているのに悪化してしまうのでしょうか。そのメカニズムは以下の通りです。
- 一時的な痛みの解放
爪の角を深く斜めに切り落とすと、それまで皮膚に突き刺さっていた爪の先端が物理的に消失するため、その瞬間は「あ、痛みが消えた!楽になった!」と感じます。これが大きなトラップとなります。
- 肉(周囲の皮膚)の盛り上がり
爪の角を切り落としたことで、本来爪が存在していた場所に「空きスペース」ができます。すると、指の腹にかかる歩行時の圧力(床反力)によって、爪の横にある柔らかい皮膚(側爪褶:そくそうしゅう)が、その空きスペースに向かってグッと盛り上がり、覆いかぶさってきます。
- 逃げ場を失った爪の再成長
爪は1日に約0.05mm〜0.1mmずつ、ゆっくりと前へ向かって伸びていきます。しかし、先ほど切り落とした爪の角が再び伸びてくるとき、そこにはすでに盛り上がった皮膚が壁のように立ち塞がっています。
- より深部への再刺傷と激痛
行き場を失った爪の角は、以前よりもさらに深い位置で、盛り上がった皮膚の奥深くへ向かって斜めに突き刺さります。刺さった爪の角は、まるで刃物のように肉を切り裂き、前回を遥かに超える猛烈な痛みと炎症を引き起こします。
- 負の連鎖の完成
あまりの激痛に耐えかねた患者様は、「またあの角を切らなければ!」と、さらに奧深くへ爪切りを差し込み、より深い位置で角を切り落とします。
【痛い ➔ 角を斜めに切る ➔ 一時的に楽になる ➔ 皮膚が盛り上がる ➔ 爪が伸びて深く刺さる ➔ 前以上の激痛 ➔ さらに深く角を切る……】
この恐ろしい負の悪循環に一度ハマってしまうと、ご自身の爪切りだけで解決することは不可能です。切れば切るほど爪の幅は狭くなり、深部の肉へ刃物のような爪が埋もれていくことになります。
重症化するとどうなる?「肉芽(にくげ)」の形成
この「爪の角を切る悪循環」を繰り返したり、痛みを我慢して長期間放置してしまったりすると、陥入爪は「重症化」のステップへと進みます。
肉芽組織(にくげそしき)の増殖
刺さった爪の角が皮膚の深い層を刺激し続けると、体はそれを「異物侵入」および「持続的な傷(創傷)」と判断します。すると、傷を埋めようとする生体防御反応が過剰に働き、刺さっている場所の周囲に「肉芽(にくげ)組織」と呼ばれる、赤くて盛り上がった柔らかい肉の塊が作られます。
この肉芽組織は、非常に血管が豊富で繊細な組織です。そのため、以下のような非常に辛い症状を引き起こします。
- わずかな接触での出血: 靴下を履く、布団が触れる、軽く指が当たるだけで、ボタボタと血が出ます。
- 激しい拍動性の痛み: 歩くたびにズキズキと足の指が痛み、夜も眠れなくなることがあります。
- 浸出液と膿(うみ)による悪臭: 肉芽の周りから常にジクジクとした黄色い汁が出続け、靴下を濡らしたり、独特の強い臭いを発したりします。
- 二次的な細菌感染: 傷口から黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入すると、指全体が赤く腫れ上がり、蜂巣炎(ほうそうえん)という広い範囲の感染症に進行するリスクもあります。
肉芽ができてしまったレベルまで重症化すると、自宅でのスキンケアで治すことは困難であり、医療機関での適切な処置が絶対に必要となります。

足の親指にできた肉芽
皮膚科医が教える!正しい爪の切り方「スクエアカット」
巻き爪や陥入爪を予防し、トラブルを起こさない健康な足を保つための基本中の基本。それが「スクエアカット(四角い切り方)」です。
患者様の多くは「爪は丸く、指の形に沿って切るもの」と思い込んでいらっしゃいますが、足の爪に関してはこれは間違いです。
今日からぜひ、以下の3つのルールを守って爪をお手入れしてください。
ルール①
長さは「指の肉と同じか、少し長め」
爪を切りすぎないことが最大のポイントです。爪の先端(白い部分)を少し残し、指の肉の先端と同じ長さ、もしくは1mm程度長いくらいに保ちます。 指の肉よりも爪が短くなると「深爪」となり、皮膚の盛り上がりを招く原因になります。
ルール②
先端は「真横にまっすぐ」切る
爪切りを斜めや丸く入れるのではなく、真横に向かって一直線(直線状)にハサミを入れます。端から端まで、まっすぐなラインを作るイメージです。
ルール③
両端の「角」は絶対に切り落とさない
まっすぐに切ると、爪の両端に「四角い角(かど)」が残ります。この角こそが、爪が肉の中に落ち込むのを防ぐための大切な防波堤(ストッパー)です。 角を残すと「靴下に引っかかって痛い」「隣の指に当たって痛い」という場合は、爪切りで切り落とすのではなく、爪ヤスリ(エメリーボード)を使って、角の先端の尖りだけを少し丸める程度に削ってください。

爪切りの道具選びも大切
足の爪は手よりも厚く硬いため、無理な力で切ると爪が割れて縦亀裂が入ることがあります。 まっすぐな刃を持つ「足用爪切り」や、刃先が細かく小回りが利く「ニッパー型の爪切り」を使用し、入浴後の爪が水分を含んで柔らかくなっているタイミングで切るのがおすすめです。
クリニックで行う「巻き爪・陥入爪」の専門ケア
「もうすでに深爪にしてしまって、角が刺さって痛い」
「爪の横が赤く腫れて、汁が出てきている」
このような状態になってしまった場合は、自己流で解決しようとせず、早めに当院の皮膚科外来を受診してください。
当院では、お肌や爪の状態、痛みの段階に合わせて、以下のような適切な処置を行っています。
① 痛みを速やかに和らげる処置(保全的治療)
- テーピング法
- 伸縮性のある医療用テープを使用し、刺さっている爪の横の皮膚を、爪から遠ざける方向(下〜斜め後方)へ強力に引っ張って固定します。爪と肉の間に物理的な隙間を作ることで、受診したその場で痛みを劇的に和らげる効果があります。ご自宅でも再現できるよう、貼り方の指導も行います。

- ガター法(人工爪・チューブ挿入)
- 刺さっている爪の側縁と皮膚の間に、縦に切れ目を入れた極小の医療用プラスチックチューブ(軟質チューブ)をスライドさせて挟み込みます。爪の鋭利な角が皮膚に直接触れないよう「カバー」をかける処置です。チューブを入れることで痛みが即座に消失し、肉芽の消退を促しながら、爪が正しく前方へ伸びてくるのを安全にガイドします。

② 巻き爪の形状を平らに整える「巻き爪マイスター」(自費診療)
当院では、爪の巻きが強く、それが原因で痛みや生活への支障が出ている患者様に対し、医療機器である「巻き爪マイスター」を用いた切らない巻き爪矯正治療を行っています。

巻き爪マイスターを用いた治療の症例(左:治療前 右:治療後)
- 巻き爪マイスターの仕組み
- 超弾性合金ワイヤー(形状記憶合金)コイルを内蔵した特殊な器具を、巻いている爪の先端の両端にフックで引っ掛け、爪の中央部に固定します。 ワイヤーが元に戻ろうとする「持続的な平らに広げる力(弾性力)」を利用して、時間をかけて安全に爪の丸まりを平らな状態へと矯正していきます。
- 巻き爪マイスターのメリット
- 施術時の痛みがほぼない: 麻酔の注射などを必要とせず、短時間で装着できます。
- 装着直後から痛みが軽減: ワイヤーの広げる力がかかるため、爪が肉を挟み込む圧力が和らぎます。
- 目立ちにくく、日常の制限が少ない: 装着したまま入浴や日常生活を普通に送ることができます。
※爪の長さが足りない場合(極端な深爪)は、まずガター法やテーピングで爪を伸ばしてから装着を行う場合があります。
③ 重症化した際のリスクについて
初期の段階であれば、上記のテーピング、ガター法、巻き爪マイスターといった「痛みの少ない保存的なケア」で十分に改善へ導くことが可能です。
しかし、激しい痛みを何ヶ月も我慢して放置しすぎたり、何度も自己流で深爪を繰り返して肉芽が巨大化・化膿してしまったような重症例においては、当院での保存的ケアの範囲を超え、抜爪(爪を抜く処置)や、皮膚科・形成外科での手術(フェノール法など)が必要となる場合があります。
手術や抜爪となると、局所麻酔の注射が必要になり、術後の処置や生活上の制限も大きくなってしまいます。
「そうなる前に、少しでも違和感や痛みを感じた段階で受診していただくこと」が、患者様ご自身の体と心の負担を最小限に抑える一番の近道です。
日常生活でできる!巻き爪・陥入爪の予防習慣
最後に、治療が終わった後や、日頃から巻き爪・陥入爪を予防するために意識していただきたい日常生活のポイントをまとめました。
① 靴選びの見直し(指先に余裕を)
- つま先に1cm程度の余裕がある靴を選ぶ: 靴の中で指が自由に動かせる幅と深さが必要です。
- ハイヒールや先の細い靴の長時間の着用を避ける: つま先に体重が集中し、両脇から爪が強く圧迫されます。
- 紐靴やベルト付きの靴を正しく履く: かかとをしっかり靴の後ろに合わせ、甲の部分で固定することで、歩行時に足が前へ滑り落ちてつま先がぶつかるのを防ぎます。
② 正しい歩行(足の指を使って歩く)
実は、「歩かないこと(足の指に体重がかからないこと)」も巻き爪の原因になります。
爪には本来、放っておくと自然と内側へ丸まっていく性質があります。歩くときに「足の指で地面をしっかり蹴る」ことで、下から上への反対方向の力(床反力)が加わり、爪は平らな状態をキープできるのです。
長期間寝たきりの方や、浮き指(歩くときに足の指が地面に着いていない状態)の方は、床反力がかからないため爪が巻きやすくなります。かかとから着地し、足の指の腹でしっかり地面を蹴って歩く意識を持ちましょう。
③ 足の清潔と保湿
夏場は特に、入浴時に足の指の間や爪の脇(爪溝)まで、泡立てた石鹸で優しく丁寧に洗い流しましょう。爪の隙間に溜まった垢や汚れは細菌の繁殖源となります。
また、乾燥も爪が硬く縮んで巻く原因になります。入浴後は足の甲や指先、爪の周囲にも保湿クリームやネイルオイルを塗り、柔軟性を保つことが予防につながります。

爪のトラブルは我慢せず、皮膚科へご相談ください
「たかが爪の痛みだから」と我慢を重ねたり、「痛いから切ってしまおう」と自己判断でハサミを入れて深爪を作ってしまったりすることは、症状を複雑化させ、回復までの時間を長引かせる一番の原因となります。
繰り返しになりますが、「爪の角を斜めに切り落とす=巻き爪・陥入爪を最悪の事態へ悪化させる行為」です。
夏は素足になる機会が多く、汗や湿気によって爪トラブルがもっとも進行しやすい季節です。
- 「爪の端が食い込んできて、歩くときに違和感がある」
- 「自分で切りすぎてしまって、これからどう伸びてくるか不安」
- 「指の横が赤く腫れて、触ると激痛が走る」
どんなに小さな違和感であっても構いません。
痛みが強くなって歩けなくなる前に、そして大きな手術や抜爪が必要になる前の段階で、ぜひ一度、御所南はなこクリニックの診察室へお越しください。
専門医の視点から、あなたのお肌と爪の状態に合わせたもっとも負担の少ない適切なケアをご提案し、再びストレスなく快適に歩ける足元を取り戻すお手伝いをさせていただきます。
皆さまのご来院を、スタッフ一同心よりお待ちしております。
この記事を監修した医師
木谷 美湖野(きたに みこの)
御所南はなこクリニック 医師
- 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
- 日本美容皮膚科学会
- 弾性ストッキングコンダクター
2014年長崎大学医学部卒業。神戸労災病院での初期研修を経て、2016年に神戸大学皮膚科へ入局。神戸大学医学部附属病院、三田市民病院、西宮市立中央病院にて皮膚科医としての研鑽を積む。
私生活では2児の母であり、親しみやすい診療を心がけている。


